あさひ創業70周年 ―創業当時の自転車業界

2019.09.04

70年前の自転車を取り巻く環境

2019年、(株)あさひはおかげさまで創業70周年を迎えました。
今から70年前というと、1949年です。当時の自転車とそれをとりまく環境は、どのようなものだったのでしょうか。
戦後間もなくの自転車について、少し真面目に概観してみたいと思います。

また、当社の歴史について、もしご興味がある方は、こちらをご覧ください。

大きかった太平洋戦争の影響

自転車は太平洋戦争の影響を最も大きく受けた産業の1つです。戦前には機械輸出の金額がトップで、機械工業の花形とも言われた自転車産業。戦前の1937年には109万台を記録していた総生産台数は、1945年には1万8千台にまで減少しました。 

その要因の一つに、自転車関連企業の軍需企業化があげられます。
完成車生産大手の宮田製作所(現ミヤタサイクル)は、1932年から航空機車輪生産を開始し、日中戦争開戦以降、本業の自転車生産を軍需生産が圧迫するようになりました。
また、部品生産大手の島野工業(現シマノ)も、戦時期は海軍の機銃弾をはじめ、砲弾の信管や迫撃砲弾などの生産を行い、自転車部品の生産は戦前のわずか1/10にまで減少しています。 

「太平洋戦争」「自転車」と2つのワードを並べると、マレー戦線の「銀輪部隊」を思い浮かべる方も少なくないかもしれません。ただし、彼らが使用した自転車の多くは、現地で市民が使用していたものを徴発したものと言われ、「民間用は途絶したものの、軍用の自転車は多く生産されていた」と解釈するのは難しいと思います。

戦後の自転車産業の復興を支えたのは?

戦時期に自転車生産がほぼ途絶したことで、終戦時点の自転車生産施設は事実上ゼロに等しい状態でした。しかし、上のグラフをみると、1945年の終戦以降、自転車の生産が急増していることが分かります。
需要側の要因としては、自動車・列車・船舶等が戦災でマヒしていたことで、移動・運搬に使える自転車の需要が大きかったのだと思います。

 

サラリーマンの平均給与が1000円前後のこの時期に、「どうにか使える古自転車でさえ、自転車店へ持って行けば6-7000円で引き取られ、店頭に1万円の値札をつけておけばその日のうちに売れた」 というエピソードがあります。
また統計を見ても、1945年に200円だった自転車の平均小売価格が1949年には7345円まで急騰している ことから、インフレの影響を大きく受けた製品と言えるでしょう。

供給側の要因としては、戦時期に軍需品を生産していた企業が、1946年頃から自転車産業に進出したことが挙げられます。
終戦時にGHQによって「戦争のための再軍備をなすことを得せしむべき」 製品の生産を禁じられた彼らは、平和的な機械器具の生産に乗り出しました。その一つが自転車でした。
比較的精度の高い工作機械を有し、高度の技術者も抱えていた彼らは、手持資材を使って、新しい生産方式の開発や、新しい車種の発売など、自転車産業の動きを活発にしました。
1950年に朝鮮戦争がはじまると、彼らの多くは元の重工業に戻っていきましたが、この数年間に彼らが果たした役割は非常に大きかったと言わざるを得ません。

意外と知られていないブリヂストンサイクルの創業

自転車産業に進出した企業のうち、現在も自転車生産を続けている企業があります。当社の創業年と同じ1949年に自転車生産を開始した、ブリヂストン自転車(現ブリヂストンサイクル)です。
同社は航空機の車輪生産から自転車生産に転換しています。

 

1949年に開発された生産方式、ダイカストフレーム製造法は、自転車の耐久性向上と軽量化を同時に実現しました。
生産当初は材料の不適合などから使用中にフレームのパイプが抜けるといった問題が発生したものの、試行錯誤を繰り返して改善し、この製法は現代まで受け継がれています。数年前まで生産されていた「上尾式ダイキャスト」は記憶に新しいかもしれません。
1963年以降、市場シェアNo.1を独走してきた同社の製品は、現在も根強い人気があります。

ブリヂストンサイクルの製品はこちら

文中に登場したミヤタサイクルの製品も当社取り扱いございます。

まとめ

1945年から1949年の戦後復興期を「戦後の何もない時代」 と表現する文章も見られます。
しかし、上に見たように、当時の人々が様々な制限がある中で今あるものを最大限に生かし、誰かのためにと「ものづくり」に励んだ歴史があります。

当社も「子供たちの笑顔がみたい」と玩具製作をはじめた、その歴史の1つです。
時代と製品は違えど、サイクルベースあさひのスタッフである私も、先人に学び、自転車でお客様を笑顔にできるよう、努めてまいります。

参考資料
自転車産業振興協会編(1973)『自転車の一世紀』
株式会社シマノ(1991)『シマノ70年史』
朝日新聞社(1942)『大東亜戦史マレー作戦』
佐野裕二(1985)『自転車の文化史』
週刊朝日編(1995)『戦後値段史年表』
(株)あさひ社史編纂プロジェクト事務局編(2019)『すべてはお客様のために 常なる革新の70年 1949-2019』

 

TEXT:赤羽店 mizo

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